1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった
著者:せきしろ
おすすめ度:★★★★☆
芥川龍之介の「トロッコ」は、中学校か高校の時の国語の教科書に載っていたと思う。
一生懸命お手伝いしたのに、もう暗くなってきたから帰りな、と言われて呆気に取られる感覚。
いつのまにか自分だけ本気になっていて、取り残されたような感覚。
主人公はそれを「トロッコの感覚」として何回も経験する。物事に夢中になれる人の、ある意味特権であると思う。
主人公は、高校を卒業してからの自由な時間を、大学にも予備校にも行かずそれこそ自由に過ごした。
多くの若者が妥協して大学に行くところを、本当の意味で何がしたいのかを考えてラジオ局にハガキを送ることに夢中になった。
私たちは、型にはまりすぎているのかもしれない。
型にはめないスポンジケーキの生地はきっとどこまでも伸びていくのに、型にはめられてしまっているから狭い場所で積み上がっていく。深く経験することも大切だけれど、広い世界を少しずつ知ることも大切だと思う。
これからは、ハガキを送るということに馴染みがなくなっていくと思うけれど、その分この本は「ちょっと昔のこと」を教えてくれる大切な本になるだろう。